新刊と古本の書店 mountain bookcase

新刊と古本の書店 mountain bookcase 

富士見駅前商店街が役場前道路と接する交差点を富里方面へ3軒目。そこが目指す「mountain bookcase」だ。

雨宮テーラーと茶虎飯店の間に位置するその店舗は、昔は時計店だったと聞く。一見「この場所でよかった?」と思うのだが、目を留めると、店の正面から、じわじわとワンダーランドの匂いがしてくる。

 

新刊と古本の書店 mountain bookcase(開店前に撮影)


入り口右側のショーウインドウには、その昔ピアノを欲しかった少年が鍵盤を描いたキーボード板や、30cmもある松ぼっくりが置いてある。
左側にはその都度変わるというポスターが貼られ、棚の上には木彫りの熊の人形が飾られる。

不思議な感覚になりながら、観音開きのドアを開けると、「こんにちは」とにこにこしながら迎えてくれるのが店主の石垣純子さん。

店主の石垣純子さん

店内にはたいがい何人かのお客さんがいて、あちこちで本を開いたり、石垣さんと話したりしている。

 

わくわく感が広がる店内


広さが7.5坪だというこのお店。入った途端、「わあ、レイアウトが変わった!」「新しい本だ!」。日々進化する店内の様子が目に入り、じわじわと好奇心がくすぐられる。

入り口正面に平置き用のテーブルがある。ここに置かれた本のチョイスは石垣さんの真骨頂

入り口正面に平置き用のテーブルがある。ここに置かれた本のチョイスは石垣さんの真骨頂。
今話題の本、注目したい社会事象の本、小さい出版社の本、地域の本、ぜひ読んで欲しい目立たない本などなどの新刊が置かれている。


「きゃあ、これ気になっていた本です。ここにあったんだ! 今お金がないので、次来る時まで取っておいてもらっていいですか。」「ありがとうございます。もちろんです。」「確保しておかないとすぐなくなっちゃうから。」

こんなやりとりを聞いていたサイン会中の詩人さんが、「いい本屋ですねえ。」と声をかけてくれたこともあった。(ヒミツなんだけど、ここはツケ払いをしてくれるいい本屋!)
このテーブルはとりわけ心が踊るコーナーだ。

入って右手の書架には、小説やエッセーなどが並んでいる

入って右手の書架には、小説やエッセーなどが並んでいる。旅をテーマにした本や自然関連の本も多い。
「サピエンズ全史」の漫画版や、紙すきから印刷、製本まですべてが手作業というインドの絵本「夜の木」が置いてあり、ちょっとため息が出た。この書架から梨木香歩さんの本を2冊買ったこともある。

 

左手の棚には、雑誌「coyote」や「太陽」のバックナンバー、美術や建築の古本などが置かれ、奥には1974年改訂版の懐かしい岩波小年文庫や絵本・児童書が並んでいる

左手の棚には、雑誌「coyote」や「太陽」のバックナンバー、美術や建築の古本などが置かれ、奥には1974年改訂版の懐かしい岩波小年文庫や絵本・児童書が並んでいる。

 

入り口正面の棚は、古本の文庫本コーナーになっている

入り口正面の棚は、古本の文庫本コーナーになっている。何冊もの村上春樹やムーミンのシリーズも置いてあった。ここから金子文子「何が私をこうさせたか」を購入した。

本棚やテーブルは手作りで、そこここに世界各地の民芸品や民俗人形などが飾られ、また、石垣さんが各地で集めた「石コレクション」が出て来るガチャガチャまで置かれている。このゆとりやあそび・・・わくわく感がさらに高まる。

 

本の目利きがいるからこそ 

ここには大きな本屋では見逃してしまうような本がたくさんある。
地方の本屋さんがこだわって作った本、多分細々ながらずっと読み継がれている本、小さな本屋さんが願いを込めて出版した本、流行に乗りそうもない本・・・。今話題の本でも、真摯な内容のものが選ばれている。

旅の本、民俗学関係の本、自然科学系の本など、石垣さんがお気に入りで、みんなに薦めたい本も置いてある。
心に深く残る本が多い。
この本屋の店主は本の目利きだなあと感じる。

石垣さんには新刊本を選ぶ時、2つの指針があるという

・好奇心の扉を開いてくれる本
・一人の時間に穏やかに寄り添ってくれる本

この本屋にある本は、まずこの2つのふるいにかけられる。
その上で、実際の本選びはどのように行われるのだろう。
 
石垣さんは 「本の情報はできる限り集めるようにしています。同業者からの情報も貴重だし、お客さんの話や情報も本当に参考になります。」と話す。

様々な情報に向けての高いアンテナを持ち、たくさんの情報を柔軟に受け止めることや、情報の清濁を見極めることに長けているのだろう。

それは、きっとこれまでの読書の経験や、本屋としての実績が関係しているのだと思う。
それに加えて、石垣さんを本の目利きたらしめる、根っこのところに、人並みはずれた行動力とおもしろがる力があるのではないかと密かに思っている。

石垣さんは5〜6年前ふらっと香川県を訪ねたそうだ。初めて訪ねた時から風土も食べ物も気に入って、もっとここにいたいと思ったという。

特に高松はユニークな個人経営の書店が点在していて、どの店主も気さくでおもしろい。去年は、当時それらの書店で働いていた女性二人が、コロナ禍の春を文章で記録しようと、小冊子を出版することになり、真っ先に寄稿したそうだ。

これはひとつの例なのだが、なんという行動力なのだろう。なんというおもしろがり方なのだろう。石垣さんは、香川県のみならず、国内外各地を飛び回っている。
いろいろな場所に行き、いろいろな人に会い、いろいろな経験をし、たくさんおもしろがる。そうすることで自分の世界が広がる。これはきっと本の見方を鍛えることと深く繋がっているはずだ。

これからもこの本屋さんで、本の目利きが選んだ“いい本”に出会いたい。

なお、古本の選書の基準は“売りたくない本は除く。それ以外は欲しい人が欲しい本を見つけられるよう幅を持たせて置いている”ということだ。

 

人とふれあえる場所

 本好きな人の中には、誰かと本の話をしたいと思っている人が少なからずいる。そんな人にとってmountain bookcaseは本当にいい所だ。

石垣さんはおもしろがって話を聞いてくれる。好きな本の話を共感的に受け止めてもらえるのはとても嬉しい。
他の客が石垣さんと話すのを、聞くともなく聞いているうちに、本に対する興味が広がっていくということもある。
久しぶりに知人と会ったり、紹介してもらって知り合いになったりする場でもある。
もちろん「今日は人と話したくない気分」という時は、石垣さんはそれを察して、ほどよい距離を保ってくれる。
 
石垣さんが言っていたことば。「私は多分人が好きなんです。そして同じくらい自分のことも好きなんです」。うんうん。納得。

 

そして、これから

「辞書で遊ぶ会」

昨年、「新明解国語辞典」の第8版が出たのを記念して、「辞書で遊ぶ会」が開かれた。進行役は、山に本を担ぎ上げて頂上で本を売る杣書店の店主さん。(そういう本屋があるのだ!) 参加者は、小中高生と青年や熟年、老年。必死になって宣伝をした風はなかったのに、いかにもこの本屋らしくいろいろな人が集った。様々な辞書を比べ、みんなでたくさんしゃべり、笑い、ことばのおもしろさを堪能した。
「これからも何かやりたい」「著者が自作を語る会はどう?」「読書会をやってほしい」そんな声が届いているという。この本屋でやる企画はきっとおもしろいものになりそうだ。

楽しいイベントだけでなく、石垣さんは本の橋渡しのようなこともやりたいと話してくれた。
最近は断捨離などで蔵書の処分を考えている人も多いという。処分する本を誰かのために役立てられないかと望む人がいたら、出向いて行って古本を引き取ったり、どこかに届ける仲介役をしたり・・・そんなこともできないかと考え始めているそうだ。


mountain bookcaseを「寄り道のついでにふらっと立ち寄れる本屋、気になることをぼそっと話せる本屋」にしたいと石垣さんは言う。
mountain bookcaseは、石垣さんの本屋だけれど、これからますます、地域に住む人たちの「わたしたちの本屋」になっていくことだろう。

 

お店情報

mountain bookcase お店情報 

住所      諏訪郡富士見町落合9984−574
連絡先     080−4373−6354
開店時間    土・日・月曜日 13:00~18:00(インスタ等で確認を)
インスタグラム instagram.com/mountainbookcase
F
acebookページ https://www.facebook.com/mountainbookcase

 

 

(Written by 村上不二子)

 

 

 

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