文化・景観

乙事瓜(おっことうり)をご存知ですか

乙事瓜(おっことうり)をご存知ですか

乙事瓜って?

伝統野菜といえば京都や金沢を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、この富士見町にも昔から作り継がれている、全国流通に乗らない地域独特の野菜があるのです。

その一つが「乙事瓜」。「乙事昔瓜」とも「乙事赤瓜」とも呼ばれているそうです。
「乙事」とは富士見町の由緒ある集落の名前。その乙事に由来をもつ、昔から作られている、赤い皮の瓜。それが乙事瓜です。

乙事瓜はどんな味? 特徴は何と言っても歯ごたえ。コリコリでシャキシャキでカリカリです。味はきゅうりそのままですが、さっぱりとしているのに風味が高く、食べ頃になると微かにメロンの香りがする気がします。

市販の普通のきゅうりに比べると、3倍程の大きさ、収穫期間も長いそうです。

肌がざらざらしていて、見かけはやや無骨だけれど、いいことづくめのこのきゅうり。富士見に住む者として、これは育ててみるしかありません。
2021年5月、乙事瓜づくりに挑戦しました。

 

タネが重要だ

乙事瓜
乙事瓜のタネ(隣の畑のおばあちゃんにもらったもの)

全国流通していない伝統野菜を育てる最大の難関は、タネをどう手に入れるかです。販売されていないので、誰かにもらうか、自分で育て採取したタネを大事にとっておくかしかありません。

「タネは採るものじゃなく買うものだ」という時代になったと言われます。でも売っていないのだから自分で採るしかありません。乙事瓜を育てることは、野菜のタネを自分で採る挑戦でもあるわけです。

「おいしさの8割はタネで決まる」と言われるように、おいしい野菜を育てるにはいいタネが肝心。いいタネを手に入れるにはいい野菜を育て、その実から採取すること。なり始めの実の中から、形が整った丈夫そうな瓜を選び、「これはタネ用だからね」と、自分にも瓜にも言い聞かせ、紐を結わえるなどして目印を付けておくといいと教えてもらいました。

さあこれから、タネからタネへ、貴重な体験が始まります。

 

いよいよ栽培

5月中旬、隣の畑のおばあちゃんからいただいたタネを播きました。
育て方は、周りの畑の人たちから教えてもらいました。

乙事瓜
本葉が出ました。地這えで育てます。


乙事瓜6月上旬、つるがぐんぐん伸び、花が咲きました。


乙事瓜
小さいうちから立派な実。

乙事瓜
初収穫。大きくまるまると育ちました。実の大きさだけで「よっしゃ!」と思い、皮全体に赤みが付かないうちに収穫してしまいました。早まって失敗!


乙事瓜
ちなみに農家の人からいただいた食べ頃の乙事瓜。確かに赤瓜です。長さ27㎝、胴回り22㎝ありました。表面に白くて細かい編み目模様が出ています。

 

さあ食べよう

乙事瓜
一番気に入っているのが、粕和え。
種を除いて薄く切ります。塩を一振りして水分を抜き、酒粕と少量の砂糖で合えます。砂糖を入れることがミソだそうです。

乙事瓜
浅漬け。細長く切ってクリームチーズでディップに。西洋風も合うかも。新しい発想のお料理ができる余地が大きい食材のような気がします。

乙事瓜
こちらはオーソドックスです。塩一振りで水分を抜き、鰹節をかけただけのもの。ひんやりさっぱりで夏にぴったりでした。

 

未来を手に入れる

9月中旬、一巡りして、タネを収穫する時期がやってきました。

乙事瓜
今年度収穫したタネ用の瓜 

乙事瓜
タネ用の瓜の中で育ったタネ

乙事瓜
中身を取り出し、水で洗い、浮かび上がったしいなを取り除きました。タネは全部で288粒ありました。これで未来に繋がりました。

未来に繋がったのは、我が家のタネだけではありません。

乙事瓜は2011年11月7日、「信州伝統野菜」に認定されたのだそうです。
(長野県は県内各地に残る貴重な伝統野菜を次代につなげていこうと、2008年に「信州伝統野菜認定制度」を設立。乙事瓜はきゅうりの部門で名称「乙事赤瓜」として認定される。)
「信州伝統野菜」の制度には「伝承地栽培認定」もあるそうです。現在、乙事赤瓜は伝承地栽培認定を受けていないようですが、乙事赤瓜の栽培農家に向け、生産が制度的に保証されるようになるといいなあと思います。

信州の伝統野菜 特設サイト

 

乙事赤瓜をご賞味あれ

乙事赤瓜、食べてみたくなったでしょ?
初夏から秋、富士見町を訪れたら、畑で働いている人に声をかけてみてください。きっと何かしらの情報をもらえると思います。運が良ければその場でもいいで渡されるかもしれません。
町内のスーパーマーケットの生産者コーナーや、野菜の直販所に並んでいることも多いです。
ご賞味あれ。そして気に入ったら自分で育てることにも挑戦してください。

これからも継承されるよう、乙事赤瓜の応援をどうぞよろしくお願いします。


 
 【参考資料】

  • 「長野日報」 『農業を始めよう〈乙事赤瓜〉』 (2017年9月9日)
  • 長野県公式ホームページ 「信州の伝統野菜」 (2021年9月16日)

 

(Written by 村上不二子)

 

富士見町の文化と景色を、様々な切り口で紹介しています。