7月末、井戸尻史跡公園の蓮田の上段に舞台が設置されました。
貫構法研究会が伝統的な建築の技術を多くの皆さんに知っていただくために行っているプロジェクトです。
貫構法というのは、柱に開けた大きな穴に横板を通し、クサビで押さえる工法です。
このプロジェクトは、もともと昨年の御柱年に乙事区の乙事諏訪神社に木遣り台として設置されたものです。
(写真撮影:貫構法研究会)
乙事諏訪神社の屋根のカーブとおめでたい御柱に合わせて木遣り台にも紅白のタープの屋根が付けられました。建御柱は雨の中だったようですが、盛大に執り行われたそうです。
くぎを使わない貫構法で建設されているために、解体して保存して又建設することができます。毎年、解体・建設をすることで耐久性なども研究の一環として行う予定だそうです。
そこで、今年は蓮の開花の時期に合わせて、蓮田を見渡せる場所に設置することになりました。
井戸尻史跡公園への設置
手際よく柱が設置されていきます。
横板がこのように刻まれていて、柱の穴のところで繋がれていきます。
完成
遠く、山を望んで蓮田を見渡せます。
乙事諏訪神社に建てられていた時はまた違って、素敵なたたずまいです。
これは貫構法研究会が実験の過程で使っていたものだそうです。
面白いのは横に通す板の位置によって三角の辺自由に変えられるところ。
横板を通した後に、各穴(ほぞ)の上部に左右両方からクサビを打って固定しました。
貫工法を学ぶイベント
ひきつづき、19日に貫工法を学ぶイベントが開催されました。
井戸尻の舞台で貫構法の体験をしたり、池袋区内の民家を見学しました。
8月9日の信濃毎日新聞きです。
さすが、記者さん。分かりやすく説明してくれています
井戸尻けんちく探検隊
8月19日(土)
9:00 井戸尻考古館集合
11:30 解散予定
イベントの準備
8月上旬
ワークショップ前に台風接近の情報。
急遽、舞台の屋根のタープを固定することになりました。
あれこれ考えた結果、貫先の横棒に縛り付けることになりました。
イベント当日
8月19日 「井戸尻けんちく探検隊」当日です。
まず。貫構法とはどんな構法なのか、研究会から基本的な説明がありました。
歴史は古く、鎌倉時代初期に唐の技術が仏教とともに伝えられてそうです。
柱にほぞ穴をあけて通し、横板の水平方向にどんどん繋いで行けるので、大きな建物を建てることが可能になったそうです。
私たちがよく知っている東大寺の南大門も貫構法で作られました。
貫にもいろいろな種類があります。
モデルが何種類も並べられて、柱の穴(ホゾ)貫を通してクサビを打つ体験をすることもできました。
貫構法の柱と貫の接合部にもいくも種類があるそうです。
建物の角に使われるものや壁の中間部、床下や小屋裏などの部位や、地域性、時代性や職人こだわりなどの個性も加わり多様な種類があります。
実際に貫の模型でどのような構造になっているのか見せてもらいました。
クサビを打つことによって構造物としての強度が保たれ、クサビを抜けば簡単に解体することができ繰り返し利用することができます。
また、揺れを吸収してくれるので、地震にも強い構造だそうです。
古いけど今の時代に求められているサステナブルな建築の一つの技術です。
参加者の皆さんは、舞台に乗ってじっくりと貫を観察。
左右両側からクサビが打たれています。
舞台見学後、池袋区内を歩いて、貫工法が使われているお宅を見て回りました。
貫構法は、日本全国にあるのですが、八ヶ岳山麓地域に見られる特徴の一つとして、貫が細かく入っていることがあげられるそうです。
理由として考えられるのは、まず木材が豊富でないとできないので林を管理している集落が多かったという事。
もう一つは、間伐した細い材料を使っているのではないかという事です。
その為、材料として他の地域では見られないカラマツが多く使われているようです。
他の地域では水に強いヒノキやサワラなどの針葉樹や硬いクリなどの広葉樹が使われることもあります。
我が家も貫構法が使われています。イギリス人の夫が日本家屋の美しさに惚れ込んでお隣の原村の古民家を30年ほど前に移築しました。
以前は茅葺だったので、解体するときにご近所に迷惑をかけないように、束にして一つ一つそっと下したそうです。作業を手伝った夫が、囲炉裏で燻された藁の煤で顔が真っ黒になったと言っていました。
一度ばらした木材を又組み立てるのは大変な作業でした。
これが我が家で一番古い木だと大工さんに聞いています。
≪ちょうな≫と言われる手斧で表面を削られたあとが見て取れます。
この家も何回か建て直し、使える木材は大切に使ってきたようです。
大工さんに頂いた、ちょうな(手斧)です。
夫は我が家を紹介するときに「うちの大工は腕がいいので隙間風まで移築してくれた」と紹介しますが、4人の子供たちの子育て環境としても本当によかったと思います。
障子や帯戸で部屋の広さを調整できるし、何と言っても田んぼの中の農村の風景に溶け込んだ景観は素敵です。
今回のけんちく探検隊、主催者の貫構法研究会によると本当はこの地域の小学生たちに地域の建築文化を知ってもらえたらいいなという想いで企画したそうです。
残念ながら地域のこどもの参加はなかったのですが、地元の建築を見学しながら地域の資源を生かした八ヶ岳山麓で受け継がれた技術を知り、それが生み出す美しい景観を再認識する機会になりました。
(Written by エンジェル千代子)