文化・景観

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

 実りの秋になりました。
金色に輝く田んぼで、収穫する人たちが忙しく働く様子は、見ていて心が躍ります。

お米を脱穀した後に残る藁。
「おぼれる者は藁をも掴む」「藁にもすがる思い」、そんな言い方をされてしまう藁ですが、ちょっと目を凝らすと、様々な場面で使われていて、実はとても頼りになる存在ではないかと感じます。

脱穀後の藁が、この地域でどう使われているか探してみました。

 

まずは収穫時の藁

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

はぜかけの稲。端正な風情で、大切に扱われているのがわかります。はぜかけ米はおいしいと言われ、コンバインで収穫しても、自分の家で食べる分ははぜかけにしているという人が多いそうです。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

脱穀した後、天日で干すために束ねられた藁。みごとな整列ぶりです。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

コンバインの轍と、裁断された藁が作り出した絵画。
コンバインの収穫でも、藁は裁断され、田んぼ一面に敷かれます。

 

畑で使われる藁

 藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

ここは通りすがりにいつも眺めている畑で、注目しているのはほかほかした土。晩秋にたくさんの切り藁や落ち葉を鋤き込んでいるそうです。隅に藁の束が二山積み上げられていました。「土には藁を混ぜるのが一番。こぬかを少し混ぜると発酵がもっと早くなる」と、畑の主が話してくれました。
地域には米農家と酪農家が、藁と牛糞を交換し合う仕組みもあるそうです。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

裁断された藁が畑中に並べられていました。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

寒さ避けの囲いに。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

これは「3匹の子豚」の兄さん豚の藁のお家ではありません。野菜のお家です。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

敷かれた藁は土の保温と雑草防止に。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

つる性の野菜の支えにも藁が使われます。
特にさやえんどうは細いつるがあちこちから伸びるので、藁の支えがぴったり。3〜4本を束にして、それを4〜5束、横に渡した棒からぶらさげると、つるが見事にからまります。畑のお隣さんに教えてもらったのですが、農作業の知恵に感動。

 

衣食住に使われた藁

 

今、我が家にある藁製品は、お店で買った鍋敷き一つ。
蓑やわらじがあるはずの、「富士見町歴史民族資料館」を訪ねてみることにしました。

富士見町歴史民俗資料館のホームページはこちら

資料館には想像以上にたくさんの藁製品が展示されていました。
馬に関する藁製品、俵や様々な綱、蓑の仲間、筵(むしろ)の類い、子育てに使われた品物、そして藁製品を作るための新旧の道具などなどなど。藁の使われ方は多様です。

靴の類いだけでも、藁草履、足半(あしなか)、わらじ、妻靴草履(つまぐりぞうり)、藁沓(わらぐつ)、雪沓(ゆきぐつ)、深雪沓(ふかゆきぐつ)、新雪踏具(あらゆきふみぐ)、味噌踏沓(みそふみぐつ)、なんと9種類もありました。

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

新雪踏具(あらゆきふみぐつ)

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

深雪沓(ふかゆきぐつ)

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

味噌踏沓(みそふみぐつ)

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

妻靴草履(つまぐりぞうり)と藁沓(わらぐつ)

 

展示品は、これまで見たことのないものが多く、驚きの連続でした。多様さに感動しました。
(あまりの数に、ここでは到底紹介できないので、どうぞ、資料館にいらして、実物をご覧になってください。)

 

恐らく、藁は生活に必要なものを手作りできる優れた素材だったのだと思います。けれども、もっと便利な製品が手に入るようになり、次第に作られたり使われたりしなくなった。
かつてあった藁の豊かな文化を、これからの人たちに伝えていくにはどうしたらいいのか、考えてしまった資料館訪問でした。

 

神事に生かされている藁

 

今も引き継がれているものがあります。神事で使われる藁です。

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

地区社協で藁馬作り講習会が開かれ、参加した夫がつくったもの。毎年正月に飾っています。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

藁馬が集落の道祖神に供えられているのを見つけました。
その昔、2月に「お事八日」という年中行事があり、朝搗いたお餅を藁の馬に乗せ、道祖神まで引いて行ったのだそうです。
今も供えてくださっているどなたかに感謝。(我が家でもこれから藁馬を飾るのは2月にします。)

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

田端集落の田んぼの畦で見つけた藁の人形。田の神様へのお供えでしょうか。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

池生神社のしめ縄。地域の人たちが手作りして奉納しているそうです。
しめ飾りも、地域で講習会が開かれ、手作り品が多くの家の玄関に飾られます。

 

御柱を下支えする藁

 

今年は御柱祭の年でした。上社や下社の御柱の詳細は、記録集で見ていただきたいのですが、実は御柱祭ではたくさんの綱がいろいろな所で使われます。
ここでは、池生神社(池袋地区)の小宮祭の綱についてのみお伝えします。

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

小宮祭の前に「綱打ち」が行われました。藁から作られた3本の荒縄を縒り合わせて、太い縄を作り、更にそれを3本縒り合わせ、更に3本、という具合に太い綱を作ります。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

御柱に取り付けられたメドデコ。巻かれた綱が美しい。柱の先端の綱も見事です。(見事なのに見事な様子の写真を撮ることができませんでした。無念!)

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

これは練習用に作られた御柱とメドデコ。これなら綱の見事さがわかっていただけるでしょうか。

 

藁、この優れもの 堆肥から御柱祭まで 〜藁を生かした暮らし〜

御柱に繫がれた太綱。それに絡めた細綱(今はビニール縄が使われています)を引き子が引き、御柱は神社に到着し、無事に立ち上げることができました。
池生の神様と、御柱祭を準備してくださった係の人たちと、多くの引き子と、そして、各所に使われた綱に感謝!

 

藁を生かした暮らし

 

今に残るものも、今見直されつつあるものも、今の生活から消えてしまったものもあります。
これから、時代に合った形で、でも、引き継がれて来たものを大事にしながら、藁をうまく活用できるといいなあと思います。そして、藁の原点、米作りが大事にされる社会であってほしいと願います。

こんな暮らしのある富士見町、なかなか素敵です。 

(Written by 村上不二子)

富士見町の文化と景色を、様々な切り口で紹介しています。