カラムシという植物をご存じでしょうか?
富士見町の井戸尻考古館では種の保存のために雑穀などの植物を栽培しています。
畑の一角にある、イラクサによく似た植物が気になっていたのですが、カラムシと言って古くから繊維を取って縄や布に利用されていたそうです。カラムシは苧麻(チョマ)とも呼ばれ、越後ちぢみの原料だそうです。
井戸尻考古館で行われるいろいろな行事で館長が着ている貫頭衣は、ここのカラムシから取った繊維を織って作っているそうです。道端の身近な植物から繊維採れるなんて! これは何としても体験したくなりました。
カラムシから繊維を採り、チャームを作る
茅野市の尖石縄文考古館で活動している、あんぎんの会では、カラムシを栽培し繊維を採っていると聞き、教えていただきに行きました。
カラムシは私の背丈くらいまで伸び、茎を刈って葉を落として使います。
① 刈った茎を30分ほど水に浸し、皮を剥ぎやすくしてから剥ぎます
② 根元から1/3ほどで折ると表皮が芯から剥がれます。
③ 剥いだ表皮を1時間ほど水に浸し、苧(お)引きと言って、板の上で皮の表面をヘラで削ぎ落していきます。あんぎんの会ではケッパーを使っていました。
力を入れすぎてしまうと繊維が切れてしまい、力の入れ具合、ケッパーの角度など、コツをつかむのが難しい作業でした。
薄緑色の美しい繊維が採れました。こうした状態で乾燥させると保存が可能だそうです。これを裂いて紡いで撚りをかけて糸になります。
その方法を教えていただくために、尖石考古館で7月に行われた、縄文教室3「縄文時代の糸作りに挑戦してチャームを作ってみよう」に参加しました。
カラムシの繊維を細く裂き、それを繋げて、1本の糸にしていきます。継ぐためには、片方の端を2つに分けて、もう一方のつなげる糸と撚りをかけていきます。
下の写真は撚った糸を2本一緒に撚って、太くしています。
下の写真のように繊維を撚らずにある程度まとめてねじり編みにすると、右の写真のようになります。
作業は大変でしたが自分で作った糸がいとおしくって、くずの部分も捨てられません💦
縄文体験でカラムシ体験
あんぎんの会の協力を得て、8月の井戸尻の縄文体験で井戸尻応援団でもカラムシ体験のワークショップに挑戦しました。
井戸尻考古館はどこまでも縄文の人々の暮らしに寄り添った体験が売りです。最初はケッパーで苧引き作業をしようと思っていたのですが、考古館からダメ出しが出て、考古館所有の石器で行う事になりました。
石器でも平らな面を探して擦ると、結構うまく繊維を採ることができました。
縄文人もこうして繊維を採っていたのかもしれませんね。
中には2時間くらい集中して作業をしている方もいらっしゃいました。ワークショップの参加者達からは、一連の作業を体験して満足の笑顔をいただけました。
ひきつづき10月の縄文王国収穫祭では、カラムシで縄をなう体験をしました。
館長が着ているのが、カラムシをアンギン編みで作られた巻頭衣です。
カラムシの花です。
すでに花が咲いていましたが、なんとか使えそうです。
皮を剥きやすくするために、収穫祭の前日に茎を刈って葉を落とし井戸尻の湧き水につけておきました。
今回は茎の皮を剥き、苧引き作業はせずにそのままで縄をなう体験をしていただきました。
縄をなうのは、慣れていないと一人での作業は難しいので、二人一組でやっていただくことにしました。
まず、2本に分けたカラムシを同じ方向にねじります。次に2本一緒にしてから逆に捻じって縄にします。
カジの木の遥かな旅
話は変わりますが、今年は井戸尻考古館の建館50周年にあたり、いくつかのイベントが開催されています。
先日、映画監督(映像民俗学)の北村皆雄氏の「カジの木の遥かな旅―日本の布(要約)」と題する講演を聞きに行きました。
テーマは、諏訪大社の神紋でもあるカジノキです。
パプアニューギニアや南太平洋の島々には織機がなく、「タパ」というカジノキの樹皮を木や石で叩いて布にしているとの事です。
樹皮を叩いて布にするとは、初めて知りました。日本では織物として発展してきたようです。
カジノキは中国南部原産で、日本ではその種子が縄文時代中期から弥生期の遺跡から大量に出土しているそうです。カジノキの繊維は白く美しく、その白い色は光の象徴だったのではないか、とのお話でした。
「日本の神話に現れる織物『倭文(しづり)』は、邪悪な物を払い、身を守る神聖な力を持つ布と信じられていた」とも語られました。また、「衣とは、人間を護る第2の皮膚として存在し、生まれた時から死ぬまで人間の根源を支えてきた」と言うお話は、今まで考えてもいなかった視点だったので興味深かったです。
うろ覚えなのですが、柳田國男の「木綿以前の事」では、古く山村では藤づるやシナの木の皮などいろいろな植物から布を織っていた、と書かれていたと記憶しています。
今回、自分でカラムシから繊維を採る作業をしてみて、とても美しく感激しました。また、細く裂いた繊維を一本の糸に撚り布に織っていく作業は大変なものだった、と思いを馳せる時間となりました。
果たして、寒さや暑さや外傷などから身を守るためだけのものだったのか、と。
家族や着る人を想い時間をかけて作り上げられた衣には、確かに何か特別な力があったのではないかと思うのです。
(Written by エンジェル千代子)